第19回ショパンコンクール 一次予選 感想Kevin Chen 他

第1次予選 感想メモ

JONAS AUMILLER(ドイツ)

落ち着いて聴ける演奏。ノクターンの「歌わせ方」がとても自然で、夜にもう一度聴きたくなるような魅力がある。月明かりの情景がふと浮かぶような演奏。
上位グループの一人だが、フレーズ終わりの一瞬に少し粗さが見えることも。カワイを使っているのに、どこかステインウェイ的な響きが感じられるのが興味深い(良い意味でも悪い意味でも)。
舟歌の中間部までは少し流れが停滞する瞬間もあったが、全体的には非常に美しく歌う。
ワルツでは音抜けもあったが、「歌わせる」部分には多くの魅力が詰まっている。
テクニック的に易しい作品をもっと弾いてほしいと思わせる音楽的センスの持ち主。ショパンとしての完成度は別として、心を動かす演奏だった。
音外しは多かったものの、「また聴きたい」と思わせる人。
極上の〈子犬のワルツ〉。95点。


Kevin Chen(カナダ)

圧巻の完成度。音楽的な「歌わせ方」はもちろん、間の取り方やルバートのかけ方が見事。気づくと音楽に引き込まれている。
上手いけれど心に残らない演奏が続くと、聴き疲れる瞬間もある。しかし彼の演奏に出会うと、そんな感覚は一瞬で消える。
幻想曲では力強さと情熱を持ちながらも、決して耳障りにならない絶妙なコントロール。ゆったりした和音部分にもう少しエッジを効かせてほしかったが、全体的に素晴らしい。
特に「間のセンス」が秀逸で、心を揺さぶる。
現地で体感したくなる演奏。97点。


Xuehong Chen(中国)

ノクターンの冒頭から美しい。左手のバランスや間の取り方次第で単調になりやすい曲だが、彼女は左右の音量バランスを完璧にコントロールしていた。
見た目とのギャップが印象的(良い意味で)。
技術的にも安定しており上手だが、印象には少し残りにくいタイプ。78点。


Zixi Chen(中国)

全体を通して音楽が流れており、歌わせ方も上手。
終盤のバラードでやや疲れが見えるものの、大きな欠点はない。
安心して聴けるタイプ。75点。


Hoi Leong (Zach) Cheong(中国/ポルトガル)

エチュードでは、棒弾きのようでいて、どこか心を惹きつける曖昧な魅力。
「歌わせる瞬間」で一気に惹きつけるタイプで、そこがクセになる。
聴き慣れたショパンの中に、新鮮な切り口を見せる。
審査員の好みが分かれそうだが、個性が光る。
判定表が楽しみ。78点。


Yanyan Bao(中国)

圧倒的に印象に残る演奏。
ノクターンの出だしから、音の流れと間の取り方が絶妙で、細部まで音の処理が丁寧。スタッカートの扱いも自然で、聴く者を引き込む。
バラード第1番は、出だしから魂を奪われるような陶酔感。形式的に弾きがちなこの曲を、彼女はソナタのような深みと自然な流れで構築している。
特に間の取り方とアクセントのセンスが卓越しており、才能がほとばしる。
今日一日が幸せになったと思わせる演奏。98点。


Diana Cooper(?)

青いドレスがピアノによく映えていた。
演奏は上手で安定しており、特にワルツが軽やかで美しい。
ただし、もう一度聴きたいという強い印象までは残らない。75点。


牛田智大さんについて

批判が多いようだが、前回と同じという意見には同意しない。
たしかに左手が重く感じる場面やバンバンと鳴らす箇所もあるが、彼には彼独自の音楽づくりの魅力がある。
ショパンらしく上手な演奏者は多いが、彼は「音楽が流れている」という点で大きく進化している。これは聴き手が気づきにくいが非常に重要な変化。
粗探しは簡単だが、音楽的に素晴らしい部分も多く、二次進出の可能性は十分。
ただし、中国勢のレベルがあまりに高いのも事実。

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